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広島高等裁判所 昭和40年(ネ)191号 判決

主文

原判決を取消す。

被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は第一審の分は控訴人の負担とし、第二審の分は被控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は主文第一、二項同旨及び「訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は「本件訴訟を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする」との判決並びに当審において請求を減縮して、「控訴人は被控訴人に対し九七万四三九〇円を支払え。」との判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述、証拠関係は、次のとおり附加する外原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。

被控訴代理人は次のとおり述べた。

本件貸金についての遅延損害金は月三分とする約定であつた。

本訴の第一審口頭弁論終結後である昭和四〇年七月一九日、控訴人が元金五〇万円及び年約五分の割合による利息等一七万二七四〇円計六七万二七四〇円を高知地方法務局に弁済供託し、被控訴人がその頃何等の留保も付さないでこれを受領したことは認める。

右の次第で、本件貸金の元本は皆済された関係にあるけれども、前記約定の月三分の割合による右弁済供託の日までの遅延損害金が総額一一四万七一三〇円存在するので、弁済供託された一七万二七四〇円を差引いても、なお九七万四三九〇円の未払分が存する関係になる。即ち、元金三〇万円の貸金についての遅延損害金は、昭和三四年一月二六日から昭和四〇年一月二五日まで六年分が六四万八〇〇〇円、昭和四〇年一一月二六日から弁済供託がなされた昭和四〇年七月一九日まで一七五日分が五万一四五〇円で計六九万九四五〇円となり、元金二〇万円の貸金についての遅延損害金は、昭和三四年五月一日から昭和四〇年四月三〇日まで六年分が四三万二〇〇〇円、昭和四〇年五月一日から弁済供託がなされた昭和四〇年七月一九日まで八〇日分が一万五六八〇円で計四四万七六八〇円となり、以上総計は一一四万七一三〇円である。

そこで、前示供託金受領にもかかわら、被控訴人は控訴人に対しなお右遅延損害金九七万四三九〇円の請求権を有するのであるから、請求の趣旨を前記のとおりに減縮する。

本件貸金の遅延損害金につき、被控訴人主張の如き約定はなかつた。

控訴人は昭和四〇年七月一九日、被控訴人を被供託者とし、高知地方法務局に対し、供託書に供託の原因たる事実として「控訴人は被控訴人より昭和三三年八月六日三〇万円、同年九月一〇日二〇万円を、利息日歩一銭三厘六毛九糸(九厘とあるは九糸の誤記と認む)、弁済期同年一二月末日、遅延損害金の割合を定めず貸与を受けたので、「昭和四〇年六月三〇日弁済のため、元本計五〇万円と右三〇万円に対する昭和三三年八月六日以降の右割合による利息一〇万四一五三円、右二〇万円に対する昭和三三年九月一〇日以降の右割合による利息六万八五八七円の合計六七万二七四〇円を供託する。」旨を記載して弁済供託をした。そして、被控訴人はその頃何等の留保も付さないで右供託金を受領したので、被控訴人において供託所に対し控訴人のなした供託を受諾する意思を表示したものというべきである。よつて、仮に被控訴人主張の如き貸金の事実があつたとしても、右供託金受領により全額消滅したことになる。

理由

控訴人が被控訴人を被供託者とし、昭和四〇年七月一九日高知地方法務局に対し、元本五〇万円並びに利息、遅延損害金計一七万二七四〇円(年約五分の割合)総計六七万二七四〇円を弁済供託したことは当事者間に争いがない。

ところで、本訴において、被控訴人は控訴人に対し、昭和三三年八月六日三〇万円を弁済期昭和三四年一月二五日とし、昭和三三年九月一〇日二〇万円を弁済期昭和三四年四月三〇日とし、いずれも利息及び遅延損害金月三分の割合の約で貸付けた旨主張し、控訴人に対し右貸付金合計五〇万円及び内金三〇万円に対する昭和三四年一月二六日から、内金二〇万円に対する同年五月一日からそれぞれ支払済みに至るまで年三割六分の割合による遅延損害金の支払を請求していたものである。しかるに、被控訴人が控訴人のなした前示弁済供託金を何等の留保も附さないで受領したことは当事者間に争いがない。そして、控訴人のなした右弁済供託書に、供託の原因たる事実として控訴人主張の如き記載があることは、被控訴人の明らかに争わないところであるから、自白したものと看做す。

右の如く、被控訴人は本件貸金は利息及び遅延損害金は月三分の約であると主張しているのに対し、控訴人は日歩一銭三厘六毛九糸(年約五分)の割合で供託をしている。ところで、金額に争いのある債権につき、全額に対する弁済を供託原因として金額が、債権者の主張する額に足らない場合であつても、債務者が供託書の交付を受けてその金額を受領し、しかも受領の際別段の留保の意思表示をなすなど特別の事情のない場合は、債権者において供託所に対し債務者のなした供託を受諾する意思を表示したものであり、債務者は供託金の取戻権を失い、全額弁済の効果を生ずるというべきである(昭和三三年一二月一八日言渡最高裁判所第一小法廷判決参照。)。本件の場合、被控訴人は、全額弁済の趣旨が供託原因として記載された供託書により明白であるのにかかわらず、何等の留保を付することもなく供託金額を受領したものであり、そして、他に特段の事情ありともみえないので、右説示の次第により、被控訴人が供託金受領の日に本件貸金全額が消滅に帰したということができる。よつて、被控訴人の本訴請求は、その他の点について判断するまでもなく、理由がないのでこれを棄却すべく、これを認容した原判決は取消しを免れない。そこで、訴訟費用の負担につき民訴法第九六条第九〇条(控訴人の弁済供託は第一審弁論終結後になされたのであるから、第一審当時は被控訴人において権利主張の必要があつた。)を適用して主文のとおり判決する。

第3部

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